「きミとかミ」
この日提案したワーク「きミとかミ」。必要なものは一枚の紙とペンと人二人。ある状況下の二人の会話をペアで役を決めて書いていくというのを試みる。
まず年齢性別問ず二人の人物が会話する状況をイメージする。状況は現実的でもフィクションの設定でも構わない。設定と二人の人物像を具体的にする。例えば、
「鈍行列車に二人が並んで座っている。男と女。」というように。状況や人物の描写はそれほど細かくなくてもいい。そして二人のうちどちらかの最初の一言も考えてもらう。上記の設定の場合一言目は
女「靴下が生乾きなの」
から始まるということになり、あとはその続きを制限時間15分のうちにペアでどんどん書いていく。mimaculメンバーは男女比がちょうど同じだったので、男女ペアにして6組できる。さらに女性には男性のセリフ、男性には女性のセリフを書いてもらうことにした。同じ設定の先にどのような会話が展開するか。当然それぞれに違ってくる。そして書けたらそれを別のペアに読んでもらう。読むときは女性は女性役、男性は男性役をする。
例えば会話はこんな風になる
女「靴下が生乾きなの」
男「オレもだ」
女「ウソでしょ?」
男「奇遇だね」
女「あのさー、それで付き合えると思ってんの」
男「え、だってすごくない?たまたま同じ電車にのって、たまたまとなりに座ってたまたま2人ともくつ下が生乾きなんて、これはどう考えても運命じゃない?」
女「はいはい、よかったね」
男「ああ、そうやっててきとうに流す。でもさ、どうして君のくつ下は生乾きだったの」
女「何度も言ってるじゃん、私、好きな人いるから」
男「そいつのくつ下は乾いてるの?」
女「乾いてるよ、もちろん」
男「いつ知ったんだよ、もうそういう関係なのかよ」
女「あんたには関係ないじゃん。それにさ、私くつ下が乾いてる人が昔から好きなの」
男「…そ、そんな…知らなかった。今日だってちゃんと生乾きかどうか念入りに確かめて履いてきたのに」
もうひとパターン別のペアの会話
女「クツ下が生乾きなの」
男「やっぱり川になんか入らなきゃよかったんですよ」
女「そういう日もあるわ」
男「ふうん、あお土産ってどこで買うんでしたっけ」
女「次の乗換えで30分あるからそこで」
男「はーい。じゃあそこでくつ下も乾かしたらいいよ」
女「セブンイレブンがあったような」
男「あれ、次のその乗換えまで何分?」
女「18分」
男「ああ もうそんなに乗ってたのか」
女「うそ。あと10分」
男「まずい、片付けましょう(缶ビール飲みきる)」
女「まだそんな慌てなくても」
男「いや、もうやっておかないと、ほら前みたいに乗り過ごしますよ。このあと、取引先にご挨拶ですから」
女「ちょっと顔赤くなってない、大丈夫?」
男「うん、やっぱり飲むんじゃなかった」
女「あなたは顔が赤黒いからいいけど私は…」
男「む」
女「酔いが顔に出なくて羨ましい。私はすぐに出ちゃう」
男「うーん、まあ挨拶は今日じゃなくてもまあいいか」
女「そうね」
男「よし」
このあと状況設定を2パターン試した。
『とある建物の一室。窓からは大きな見え、河口へと流れている。水面からは冬の終わりを感じさせる光が反射している。数あるベンチやイス。その中に男が二人座っている。』
男1「もうそろそろですね」
この設定は最初の鈍行列車に乗っているというシチュエーションよりも詩的な雰囲気が漂っていて、男二人の距離感もさらに具体性がない。
男1「もうそろそろですかね」
男2「一体どんな人が来るんですか?」
男1「え人ですか?人じゃないと思ってました」
男2「人じゃないと思ってた?人って聞いてた気がしますけど」
男1「や、中に入ってたりするかも知れないですけど、見た目は違うんじゃないですか?」
男2「ちょちょちょ ちょっと待ってください。私は昼下がりにここでとある男と待ち合わせて、春の息吹を横目に見ながらさらに川辺にあらわれる男を待つように言われていた気がするんですけど」
男1「あ僕…1人目のとある男ですよね、で、2人目は、僕が川から流れてくるって聞いてるやつじゃないでしょうか」
男2「多分、そう言われているなら、そいつのことなんだろう。で、結局私たちは何を待たされているんでしょうか?」
男1「来ればわかるって来てるんで、わかりやすい何かなんだと思いますよ。桃とか」
男2「それは助かりますね。桃かー。桃ですか。そして中に人が入ってるかも知れないと。…大丈夫ですかね?そんな怪物みたいなのを私たち待たされてて」
男1「まあ桃だったら、中身はまだ赤ちゃんですから。大丈夫でしょう。や、でも世話とかできないな…お子さんいらっしゃいますか」
男2「いや、私はそうは思わないんですよ、もし桃の中に鬼が入っていて、熊やライオンなんかを連れて私たちを皆殺しにすることもあり…え、お子さんですか?いますよ、きっと近くの川辺の方に」
男1「ああ、よかった、僕、育児体験ないもので」
ベケットの「ゴドーを待ちながら」を彷彿とさせる。
最後の状況設定は『妻と夫の不倫相手の女。偶然出くわしてしまった。妻が話しかける』
妻「どうしたらあなたを許せるか、ずっと考えていたんだけど」
という女性同士のやりとりにしてみた。
妻「どうしたらあなたを許せるか、ずっと考えていたんだけど」
女「ごめんなさい、この前のパーティーであなたの靴を汚してしまって」
妻「そういうことじゃなくて、もっと深い傷を負ってしまったのよあなたのせいで」
女「傷?ゴメンナサイ。スープで火傷を負わしたの」
妻「クツ、スープ、何がパーティーよ、私はあの時5才の息子とあの会場の隅っこでひっそりと佇んでいたの」
女「息子さんもう5才になるのね。会場では会わなかったけど」
妻「ええ息子はコーンポタージュが好きなの」
女「コーンポタージュ私も好きよ」
妻「日曜の夜はよく家族でガストに行くの。そこでコーンポタージュ飲み放題なのよ。飲み放題、で、お会計はいつも私のお母さんね」
女「コーンポタージュ私も好きよ、水面から引きはがすようにすくって、じっくり噛み砕くととてもとても甘いのよ」
妻「あつあつのコーンポタージュをしばらく冷ますと、表面に幕ができるわよね。私はその膜をあなたに貼りつけたい」
女「どこに貼りつけたいの、足と足の間?」
妻「そこはまだ、まずはクルトンをどうするか決めなければ」
女「私はいつもなめてもらうのクルトン」
妻「キー!!」
女「でも、たまには、どうしましょうか、そういえば、最近あなたのダンナさん、ヤケドしてない?」
妻「ええ、あの人はネコ舌だから」
女「そう、ふーふーていねいに冷ましてあげないと」
妻「…でも私は北海道産のとうもろこしを買ってきて、一粒一粒丁寧にコーンを取って、すりつぶして、うらごしして、そんな風にしながらコーンポタージュを作っているのよ」
そして出来たこれらのセリフを書いた本人たち以外の人に読んでもらう。なんとなく場所もそれらしい設定にして、演劇のシーンをやるように読んでもらう。書いた人は自分が書いたセリフが声に出されることを経験する。劇作家、作曲家でなければこういう機会はあまりないのではないだろうか。
設定と人物を想定した時に男であれ女であれ戯画化される部分があって、特に女性のセリフを書くときに男女共に〜のよとか〜だわという語尾によって強調する傾向があった。
最後に意味を介さない会話を即興的に試みた。どういうものかというと
「明日晴れるかな」
「もちろん定期便だろ」
「それをシュガースポットって言うんだよ」
「こんなにコモドオオトカゲだらけなのに」
「まあうまく研げるようになるには時間がかかるから」
「すいませんトイレ行っていいですか」
「いつまでも親を頼れると思うな」
「チャンネル変えるやつってなんて言うんでしたっけ」
と言うように前の言葉に積極的に返答しないように、連想もしないように会話を続ける。これが案外難しい。うっかり相手の言葉にまともに返答してしまったり、「りんごが旬ですね」「赤いものが好きです」と言うように引きずられてしまったりする。
これは言語の玩具的使用のためのいいワークだと思った。
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